2016年7月31日 西日本新聞 書評


 

 「テロルの伝説 桐山襲列伝」 陣野 俊史 著

 

桐山襲の名をどのくらいの人が知っているだろうか。

 

1992年、42歳で病により風のように逝ってしまった作家だ。

彼は60年代後半の学生運動の嵐の体験を熟成させ、80年代に綺羅星のような小説を発表した。

短い作家生活のなかで『パルチザン伝説』『スターバト・マーテル』など素材を連合赤軍や東アジア反日武装戦線の

事件にとり、政治的、社会的な小説作品として注目を浴びた。

 

だが桐山が忘れさられた背景には、若者たちによる政治の季節の終焉と、当事者たちの沈黙によるところが大きい。

また作品の文学性豊かな真の価値を、評価できなかった文学関係者の怠慢と、この国の過去の歴史を忘却する

「伝承なき時代」の到来による。

 

今回著者は作品を、「政治的かつ時代的な制約から解き放つような読解を提示すべき」と明快に執筆意図を開陳。

「桐山襲の読者が一人でも生まれれば」と述べる。

ゆえに個々の作品解題、小論をはじめ時代背景を紹介し、巻末には単行本未収録作品も付けた目配りが嬉しい。

 

私も本書を契機に、桐山作品を再読してみた。

詩情豊かに死者への鎮魂と生者の沈黙を謳いあげた筆はしなやかだ。

たとえば『スターバト・マーテル』は「悲しみの聖母」の意味だが、72年の連合赤軍による浅間山荘銃撃事件と仲間

へのリンチ殺人をとおして、踏み越えに至った若者たちへの鎮魂歌を描く。

本文中の「雪のなかで黝い恋人たち」「北総の大地で九月の早朝のなか突如現れ森の奥へ消えた一千人の軍隊」など

の表現は、独特のリリシズムを湛えている。

 

桐山を熟読することは、戦争体験と繋がった70年前後の団塊世代の反乱の意味を問い、桐山の南島、沖縄への思いを

考えることになる。

記憶と忘却の相克のなで、文学史のなかでの反乱文学の系譜にまで筆者があてた光は眩しい。

その功績は誠に大である。

若い世代に桐山作品を一読してもらいたい。

 

全共闘世代の私は、本書の厳粛さにうたれた。

 

 

(河出書房新社・3132円)

 

文芸評論家 横尾和博

 

2016年7月31日 西日本新聞より

 

 

 

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