「星の子」 今村 夏子 著
思春期の少女のみずみずしい感性が光の粒のように輝く作品だ。
寡作な著者だが、デビュー作「こちらあみ子」で2011年に三島賞を受賞し、「あひる」は昨年夏の芥川賞候補となった。
いずれも多感な少女期の心の揺れを鮮やかに表現している。
本書も同様で、「あやしい宗教」にはまった両親と娘の葛藤を通して、信仰とは何か、家族とは何かを問い、再度の芥川賞
候補に選ばれた。
主人公の林ちひろは幼いころから病弱で、心配した両親は知人からもらった奇跡の効能がるという「特別な水」を治療に
使う。
虚弱だったちひろの身体は回復し、両親は水を販売する「あやしい宗教」に引かれていく。
ちひろの5歳上の姉は高校に入って間もなく、父母への反発から家を出て、行方不明のまま。
親戚からも疎遠になった両親は冠婚葬祭にも呼ばれず、普通だった家族の形はいびつになっていく。
ちひろは中学でも変な宗教の信者として異端視されながら、クラスメートとの日常的な交流は続き、一方で宗教行事の集会
には両親と参加する。
ちひろにとって信ずべき人や物事はなにか。
自分の病気を治すため必死になった父母をとがめることができるのか。彼女の悩みは果てがない。
本作のポイントは、自分の大切な人が信じるものを、自分は理解できるのか、あるいは一緒に信じることは可能か、である。
この「信とは何か」に通じる問いに著者は結論を出さない。それは一人ひとりが考えるべきことだからである。
ただ一方で、信とは誰かに身を委ねることではないのか。本作を読んでそう感じた。
著者の筆遣いは静かだが、会話文が多く弾むようなリズムもあり、女の子の心情を巧みに描き出す。
青春小説を装いながら「あやしい宗教」の暗部もさりげなくちりばめる。
脇役の登場人物の不穏さや日常のほころびも描かれ、深い思考が結実している。
重いテーマを軽く書く、これこそが文学の神髄だ。著者が寡作である理由が分かるような気がした。
(朝日新聞出版・1512円)
文芸評論家 横尾和博
2017年7月2日 デーリー東北 より