2018年10月16日 福井新聞掲載    




 

 「地球星人」 村田沙耶香 著

 

 「コンビニ人間」で芥川賞を受賞した筆者の2年ぶりの長編となる本書。特異な作風で期待を裏切らない話題作だ。
 主人公は奈月という女性。小学生時代と30代になった今が交錯しながら、一人称で語られていく。小学生の奈月は「私は魔法少女だ」と思い込み、ポハピピンポボピア星の魔法警察の任務を帯びて、地球を危機から守っている、と信じる。 
 母と姉に過酷な仕打ちを受けながら、毎年祖父母が住む長野県の過疎の地へ一家で向かうのを心待ちにしている。同じ年のいとこ由宇と会えるのが楽しみなのだ。2人は引かれ性的に触れ合い、「結婚」する。
だが、関係は露見して引き離され、成長した奈月は互いにセックスしないことを条件に智臣と結婚。少女期に性暴力を受けた塾の講師を殺した過去があり、人間社会は子どもを産み育てる「工場」と認識している奈月は、いかに周囲に染まらず、自分が他の惑星から来た存在だという思いを持続できるか悩む。
 再開した由宇と智臣と廃屋となった祖父母の家で暮らすが、3人の「ポハピピンポボピア星人」として心地よい生活は長続きしない。過去の犯罪を追ってきた者らを逆に殺す奈月たちだが、次第に食料も尽き、衝撃的な結末を迎える。
本書が示すのは一貫した社会、世界への違和だ。恋愛から結婚、出産や子育てという、人間にとって自然とされる過程への筆者のあらがいは道徳、規範、倫理への審議申し立てとして表現され、常識に対し異端を執拗に対峙させる。それは筆者の長年のテーマであり、本書は魔法少女というメルヘン調な書き出しからホラー小説を思わせる反道徳への転換が見事だ。人間の不可思議の探求は近代文学の根源であり、実は正統である。
 太陽に一番近い太陽系外惑星まで到着するのに光速で4年以上。今のロケット技術では何万年もかかるという。そんな人間を「地球星人」と比喩し、宇宙的視座から人間存在の深遠と卑小を描く本書は異彩を放つ。    

 

文芸評論家 横尾和博

 

2018年10月16日 福井新聞掲載 より

 

 

 

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