文藝同人誌の最前線 〜ブンガクの未来〜

文学に未来はあるか。
いま私が考えている大きな問いだ。未来とは何年くらい先をイメージするのか。
また文学の概念とは現在の「純文学」のことを指すのか。
そのような問いを自ら発しながらも疑問や答えに窮することは多々あるが、
今回から「文芸同人誌の最前線」と謳って、同人誌のなかで目についた作品をネット上でとりあげようと思う。


■ 第19回 2020年3月

 書いたり、読んだりする文学好きな人が多くなることを心より願う。
 時代は反知性主義の真っただ中で知識や教養を蔑視し、謙虚さ、知への慄きなどひと欠片もないような言説が飛び交っているからだ。文化や文学を軽んじる世相に警鐘を鳴らしたい。
 さて文学は求道的である。ほかの芸術や茶道、また柔道や剣道なども同じだが、文学精神が大事である。何のために生きるのか、死とは何か、老いや病はなぜか、時間の概念とは何か、求めるべきものはたくさんある。
 同人誌の書き手には大きな勘違いがあり、ストーリーを書けば文学、小説だと考える向きがある。いくたびも述べるが、ストーリーは文学や小説にとって、ひとつの要素にほかならず、根底には人間とは何か、を問う主題が流れていなければならない。その主題は表面上でも、隠された表現でもよい。要は本質に流れているかどうかである。

 最近読んだ同人誌からは以下のとおり。
 猿渡由美子「古里人」(「じゅん文学」102号)は、年下の男に騙され、金を失った40代独身女性の心の空洞を描く。実家のある故郷に帰っても、そこの人たちはまるで紙人形のように精彩を欠いて見える。前半部の騙されても生き生きとしていた男との日々に比して、その落差がおもしろい。
 美月「i/21」(「全作家」116号)は、若い女性の語り口調で生と死の根源を問うていく。題名とラストの「みなさま、よき倫理を」との決めの言葉の迫力に圧倒された。学生の作品だが、センスのよさが光る。文学を学べば大成の可能性がある。

 【お知らせ】
 本欄は私が寄稿している全作家協会の「全作家」の「文芸時評」とは別である。同誌のコンセンプトはなるべく広く、をキーワードにしている。また本欄では特筆すべき何かを内包する作品を中心に少数精鋭で取り上げる。同人雑誌をお送りいただける方には、私どもの事務所に「お問い合わせフォーム」でコンタクトをとってほしい。掲載はご希望にそえないこともあるのでご了承いただきたい。


                                                           (了)

 

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