文藝同人誌の最前線 〜ブンガクの未来〜

文学に未来はあるか。
いま私が考えている大きな問いだ。未来とは何年くらい先をイメージするのか。
また文学の概念とは現在の「純文学」のことを指すのか。
そのような問いを自ら発しながらも疑問や答えに窮することは多々あるが、
今回から「文芸同人誌の最前線」と謳って、同人誌のなかで目についた作品をネット上でとりあげようと思う。


■ 第7回 2019年3月

 先月に続いて「描写」の話である。
 描写とは「ある物や事象、自然や人間心理」を、語り手や登場人物の視点で精密に、そして書き手の個性をいかして写し描くことである。
 だがただその姿や形を書くだけでは説明文になってしまう。
 たとえば登場人物が夜の海を見た場面の描写を紹介する。
 「無音の夜が闇に沈む。はかなげに散りはじめた市(まち)も灯を背にし、暗い海を見下ろした。千切れた腸(はら)綿(わた)のように海面でまくれあがるのは風に煽られた波のうねりだ」。
 このように描写は登場人物の心理を表象するときや物語が佳境に入ったときに用いる。
 小説は叙述(説明文)、描写、会話文の三分の一ずつが、よいと言われているは、描写の有無、巧拙が小説、特に純文学では肝なのである。

 さて、今回三田文学新人賞に「mon」同人の望月ななの「炭酸の向こう」が当選作となった。4月10日発売の同誌に全文掲載されるそうだ。望月は「おしなべてまりか」で全作家文芸時評賞が内定している。優れた書き手の多い「mon」のなかでも光っている。プロの道をめざしてがんばってほしい。
 古岡孝信は大分県在住で、その土地に伝わる風習や伝承を描くフォークロアをいかした作品でその才を示す。彼の個人誌「21せいき」は100号を迎えた。慶賀すべきことであり、農民文学賞受賞や『ベストエッセイ』(講談社)にも作品が収録された実力派である。今後に期待したい。
 個人誌といえば名古屋在住の堀田明日香が「みんな子ども」9号を出した。写真と詩、短編小説が掲載されている。視覚に優れているのが著者の特徴だが、本書収録の「夜に、青」ほかの作品群も同様だ。
 単行本では井本元義『廃園』(書肆侃侃房)の短篇集が小説の気品がある。著者は小説が何かを熟知している。私がこの前文で書いた描写場面も見事だ。今後の健筆を期待する。
 本欄は私が寄稿している全作家協会の「全作家」の「文芸時評」とは別である。同誌のコンセンプトはなるべく広く、をキーワードにしている。また本欄では特筆すべき何かを内包する作品を中心に少数精鋭で取り上げる。同人雑誌をお送りいただける方には、私どもの事務所に「お問い合わせフォーム」でコンタクトをとってほしい。掲載はご希望にそえないこともあるのでご了承いただきたい。


                                                           (了)

 

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